職場で、部下やメンバーにコーチングを取り入れたいと考えている上司やマネージャーは、多いと思います。
コーチングを受ける人の中にも、「仕事で使いたい」という人が少なくありません。
コーチングとは、相手の話を聴き、問いかけて、相手が自分で答えを見つけて動けるように支える関わり方です。
ただ、「質問」や「傾聴」だけでできているわけではありません。基本の手順を知っておくと、部下の育成やチームづくりに役立てやすくなります。
この記事では、職場でコーチングを使うときの進め方を紹介します。
いま読み返して思うこと
この記事は、何年も前に書いたものです。当時は、コーチングの「手順」を中心に書きました。
いま読み返すと、手順より先に大事なことがあると思っています。相手が、安心して話せるかどうかです。
人が動き出すきっかけになるのは、上手な質問よりも、安心感だったりします。
1.コーチングを始める前に確かめたいこと
1-1.コーチングが合う場面|急がないけれど大切なこと
まず知っておきたいのは、コーチングが合う場面と、ほかの方法が合う場面がある、ということです。
たとえば「大切で、しかも急ぎ」のことは、コーチングよりティーチング(教えること)のほうが合うことが多いです。
- 顧客や取り引き先への期限や納期が決まっている
- 期限が迫った仕事の進め方の指導
- クレーム対応
急ぎなので、本人が答えを見つけるのを待つ時間がとりにくいからです。
コーチングが力を発揮しやすいのは、「大切だけど、急ぎではない」ことです。
たとえば「部下のキャリアをはっきりさせる」「リーダーシップを高める」「いい人間関係をつくる」などです。

毎日の忙しさの中で、つい後回しになりやすいことです。
でも長い目で見ると、本人にも組織にも、大きな影響があると思います。
1-2.相手の目標をはっきりさせる
始める前に、相手の目標について、おたがいの認識をそろえておくと進めやすくなります。
コーチングは、「これからどうなりたいか」という目標にたどり着けるよう支えるものです。
目標と、いまの状態がはっきりすると、「何をすればいいか」が見えてきます。

目標を持っていても、それが本当に望んでいるものではないこともあります。
その意味でも、「目標をはっきりさせる」ことが役に立ちます。
傾聴や問いかけは、それ自体が目的ではありません。
目標に向かうための手段として使う、と考えておくと進めやすいと思います。
2.コーチングの進め方|4つのステップ
2-1.話しやすい場所と時間をつくる
まずは、話しやすい環境を整えておくと安心です。
まわりがさわがしい場所や、人がよく通る場所だと、本音を話しにくくなります。
会議室などの静かな場所で、話がもれないように気を配れるといいと思います。

いきなり呼び出すと、相手は不安になります。
「これからコーチングの時間をとるね」と前もって伝えておくと、相手も安心できますし、本気で話そうという気持ちにもなりやすくなります。
「ここで話したことは、ほかの人には話さない(守秘義務)」と伝えておくのも大事です。
よけいな不安があると、対話に集中しにくく、本音も出にくくなるからです。
2-2.目標に使える材料(リソース)を探す
目標がはっきりしてきたら、次はリソース(材料)について考えてもらいます。
リソースとは、経験や知識、人のつながり(協力者)、お金、情報など、目標に向けて使えそうなもののことです。
部下は、自分が材料を持っていることに、気づいていないこともあります。
「何が必要?」だけでなく、「いま持っているもので使えそうなものは?」と「あるもの」に目を向ける問いかけで、新しい気づきが生まれることがあります。
2-3.行動は本人が決める
材料が見えてきたら、次は「いまを変えるために、どんな行動が必要か」を考えます。
このとき、上司など経験のある人でも、アドバイスはいったんひかえてみます。
「こうしたほうがいい」と伝えたくなる気持ちもわかります。
でもここでは、部下が自分で考えて、行動の計画を立てられるように関わります。
たとえば本人が「スキルが足りない」と気づけば、自然と「スキルを身につける」という行動につながっていくと思います。
2-4.約束ごとを決める|続けるための工夫
やることが決まったら、実際に動いてみる段階です。
「今日からやります!」とやる気が上がっても、数日で元に戻ってしまうことはよくあります。
続けるために、決めた行動をもう少し具体的にして、ときどき様子を確かめるのが大切です。
たとえば、こんなことを一緒に具体的にしながら、約束していきます。
- いつから始めるのか
- いつまでに何をするのか
- どこでするのか
- 誰の協力を得るのか
次のコーチングで、進み具合を話してもらうようにすると、動きやすくなります。
やってみてどうだったかをふり返れば、計画を練り直すこともできます。
上司が取り組みを認める(承認する)機会にもなります。
認めてもらえると、部下は自信を持って、自分から動きやすくなります。
約束を決めないと、気づいただけで終わってしまうこともあります。
1回で終わりにせず、ふり返りのタイミングを決めながら、長い目で続けていけるといいと思います。
3.コーチが持っておきたい3つの視点(PBPの視点)
コーチが相手の成長を支えるために持っておきたい、3つの視点があります。
- Possession(持っている材料)
- Behavior(行動)
- Presence(考え方や価値観)
これを「PBPの視点」と呼びます。
では、なぜこの3つが大切なのでしょうか?こんな人を例に見ていきましょう。
- チームリーダーに任命され、半期の目標を達成したいAさん
Possession(ポゼッション)|持っている知識やスキル
まず、相手がどんな知識やスキルを持っているかを知っておくと、関わりやすくなります。
Aさんは、はじめてリーダーを任されたので、チームをまとめる力(マネジメントやリーダーシップ)が、まだ足りないかもしれません。
リーダーに必要な知識やスキルがあるかを考えるのが、Possessionの視点です。いま持っているものを知ることが、次の行動につながっていきます。
- 目標を達成するために必要なものは何ですか?
- 今持っている知識やスキルで使えそうなものは何ですか?
こうした対話で、Aさんに必要なスキルや知識をはっきりさせていきます。
Behavior(ビヘイビア)|行動
目標に近づくには、やはり行動がカギになります。
コーチは、相手がどんな行動を、どれくらいしているかに目を向けて進めます。
- 決めた目標を達成するために今日からできることは何ですか?
- 次回のセッションまでにどんなことをやりますか?
こうした対話をきっかけに、Aさんが動き出しやすくなります。
Presence(プレゼンス)|考え方や価値観
やることがはっきりしていて、知識もあるのに、うまくいかないこともあります。
Aさんは、これまでとちがってリーダーを任されています。
これまでと同じやり方をすると、自分の成績は上がっても、チームとしてはうまくいかないかもしれません。
Aさんには「成績を上げるには、〇〇しなきゃ」という考えがあるのかもしれません。
長い経験で身についた考え方や価値観(プレゼンス)は、すぐには変えられないものです。
コーチは、いまの考え方や価値観を受け止めながら、目標に向けてどんな考え方が合いそうかを、本人と一緒に探していきます。
- あなたが大切にしている価値観は何ですか?
- 目標を達成するために変化が必要だとしたら、どのようなことがありますか?
この3つは、相手の中でつながっています。
どれか1つにかたよりすぎないよう意識しておくといいと思います。
まとめ|答えは相手が持っている
「答えは相手が持っている」と考えて、相手が状況を整理し、自分で解決策を考えられるように関わる。それがコーチングです。
そうすることで、部下は自分で考えて動けるように育っていきやすくなります。
質問を重ねすぎて相手が混乱したり、聞くだけで終わったりしないように、順番を意識して進めていけるといいと思います。
300件の不満を聴きつづけた話
製薬会社で働いていた27、28歳のころ、新しい事業のプロジェクトで、およそ150人に別のビルへ移ってもらう、という仕事を任されました。
半年から10か月ほどのあいだに届いた不満は、300件くらい。相手は、ほとんどが年上です。毎日、本当にきつくて、吐きそうになっていました。
決まったことの大部分は、私には変えられません。それでも、とにかく話を聴きました。2、3か月つづけたころ、「大坂谷さんも、間にはさまれて大変だよね」と言ってもらえるようになりました。
最後には、150人全員が、納得して移ってくれました。
答えを出せなくても、聴くことはできる。職場でコーチングを使うときも、出発点はそこなのかなと思っています。
この話をもっと聴きたい方へ
コーチングラジオで、このときの話もしながら、抵抗している相手が動き出す関わり方をお話ししています。
▶ 人を動かすのは「安心感」(コーチングラジオ・YouTube)
職場でコーチングを使いたい方が、まず自分で受けてみる、という使い方もあります。









